砂漠に水

...Drop by drop shifts the desert to oasis.

第0932滴:昼行灯・服部係長のたそがれ(後編)

長良川沿いにある岐阜都ホテルがまだ岐阜ルネッサンスホテルだった頃に、 コンチネンタルを食べに男3人で出掛けた@辛い思いを味わった杉山です。

ちなみに、コンチネンタルという名のフルコースだと思って出掛けました。

ですから、小さなパンとぬるいスープと家畜の餌のような野菜が出ました。

さぁ、そんなまだメインディッシュが出ると信じて約1時間も待っていた ってハナシはバシッとやめて、今日もサラ~ッとお読みください。

■服部係長は会議室をサッと飛び出すと、

自分の机の中のソロバンを取り出した。 カシオの電卓ではなくソロバンだった。

■課長の三田村も主任の安田もなにをしてよいのか分からなかった。

3人の目の前には横浜支店の8年分の分厚い帳簿が積まれていた。 三田村課長が「部長に報告をしないと…」と言いかけたそのとき、

■服部係長は「事実関係を調べるのが先だ。この役立たず!」と叫んだ。

キッと豹変した形相はまるで獲物を追う野生のイノシシのようだった。 決してトラやヒョウに見えない容姿が服部係長の憎めないよさだった。

■呆然と口を開けた2人を背にしながら服部係長は、

帳簿に書かれた8桁の数字を2本の指ではじいた。 課長と主任はただ傍らでジッと見守るだけだった。

■それから2時間ほどが瞬く間に経過した。

そのとき服部係長の一言が静寂を破った。 彼は「2千万までは分かった」と言った。

■横浜支店に勤める若いA子が切手や収入印紙、

タクシーチケットを横領した痕跡が判明した。 三田村課長はすぐに事件を五島部長に伝えた。

■その2日後、A子は本社に呼び出されて事情聴取を受けた。

どうやら4000万円以上も一人の男に貢いでいたようだ。 事件として告訴せず全額を返還する旨を母親に約束させた。

■未曾有の横領事件が発覚してから電光石火でその幕が閉じた。

事の収束をだれがどうやったのか噂として口々に伝えられた。 しかし、服部係長は今朝も窓辺で一人、珈琲を楽しんでいる。

┃編┃集┃後┃記┃───────────────────

悪い噂は早く広く伝わりますが、 いい噂は深く染み渡るものです。

服部係長のことを隠れて「昼行灯」と呼ぶOLはいなくなりました。 きっとまたなにかあったら電光石火で動いてくれると信じています。

要は、三年寝太郎と同じような存在です。

でも、こういう事件を見事に収束しても、 上司からの評価はまずよくはなりません。

それどころか、三田村課長のリーダーシップの方が評価をされます。 しかし、服部係長はそんな小さなことなどもう気にもしていません。

彼は窓辺で飲む朝の珈琲が美味けりゃそれでいいんです。 でも、彼のことを同僚や若いOLたちは信頼しています。

今ではこの春に総務部長に昇進する三田村課長のことを、 部下や若いOLたちは陰で「新昼行灯」と呼んでいます。

そして、服部係長は今度の人事でも係長のままなんです。

※本文に登場する人物はすべて実在して悲しいことに事実ですが、 人物の名前や容姿の特徴、横領した金額等は変更してあります。

では、また明日、お会いできることを楽しみにしております。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━