砂漠に水

...Drop by drop shifts the desert to oasis.

第1657滴:三代目の憂鬱

つい先月のこと、創業57年の老舗の会社が潰れた。 三代目の社長とは1年半前にある会合で知り合った。

その頃から「資金繰りが苦しくて大変です」と嘆いていた。

結局、少しのお金を手元に残して会社は潰れた。 当然、保証人である三代目自身も自己破産をした。

先日、三代目とその社長仲間たち5人と飲み会をした。 お別れ会というか「今までお疲れ様会」のようなものだったが、

その席で「いやぁ~、本当にホッとしたよ。 もうこれで資金繰りに頭を抱えることもないし」と三代目は笑って言った。

まぁ、それはそれでよかったものの、 「三代目ともなると悲しくもないのか」と私は思った。

裸一貫、0から苦労して自分で立ち上げた会社でもないし、 別に好きで継いだ訳でもない。まだ30代前半だからやり直せるし。

たまたまその家に生まれたから三代目になっただけで、 どうせ少なからずなんらかの資産は他にあるはずだし。

数名の社員たちとの別れも辛くなかったんだろうと思った。

その翌日、一緒に飲んでいた社長仲間の中の1人から電話があった。 その人は、三代目の幼なじみで「あれから大変だったよ」と言った。

「今まで築きあげてきたものを三代目の自分の手で潰した」 「オヤジの代から頑張ってきてくれた社員たちの人生を狂わせた」

そんなことを言いながら号泣したらしい。 苦しくて辛くて気が狂いそうだと幼なじみの社長に泣き叫んだらしい。

社長仲間たちの前では虚勢を張ったものの、 幼なじみのその人の前では抑え切れないものが込み上げてきたようだ。

私もそれを聞いて、なんだかホッとした気分になった。

結局、あらゆる策を練ってわずかに残した資産やお金も、 自分のためにではなく、数名の元社員たちのために使った。

この大不況が悪いのか、単に手腕が悪かっただけなのかは分からないが、 最後にちょっとだけ救われた気がした。

┃一┃筆┃後┃記┃───────────────────

ある意味、先代よりも辛いかも知れない。

自らの手で0から立ち上げた社長は、最後の幕引きを 自らの手でやることは普通にできるかも知れない。

が、先代たちから譲り受けた次代の社長にそれは、 耐え難いと思う。

それに終止符を打つということは、会社の歴史だけでなく、 目の前の社員たちも含めてすべてを御破算にするということだから。

自分が雇った社員を説得することはできても、 自分のおしめを替えてくれた親のような社員の首は切れないと思う。

好きで創めた先代と、それを受け継いだ次代の社長の 正解のない葛藤のようなものを肌で感じた一日だった。

では、また明日、お会いできることを楽しみにしております。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━