ふらっと一人で松江に向かった。とは言え、宿題として考える仕事のテーマは頭の中にあった。結局、宿題はできなかったが最初からやる気もなかった。
JR岡山駅から乗り込んだ特急やくも9号。山間部を走る振り子列車だけあり、そこそこ揺れたが、かえってそれが私には心地良いくらいだった。
岐阜から5時間以上も掛けてやっと辿り着いたJR松江駅。県庁所在地にある主たる駅なのに自動改札ではないことに驚いたというか、妙に嬉しかった。
駅から歩いて松江城に向かった。その途中、大きな橋の上から宍道湖方面を撮影した。少しばかり曇天だったが、それもまた風情。
堀川をめぐる遊覧船にデジカメを向けたら、あろうことか数人が私に手を振ってきた。私は友人でもない輩に手を振る習慣はないので一切、無視した。
駅から15~20分くらいで松江城に着いた。目の前には素晴らしい石垣群が出迎えてくれた。
もっともっと小さいイメージを勝手に抱いていたので、いきなりのこの荘厳さに押し潰されそうになった。当然、そんな気がしただけだ。
「松江城を国宝にしよう」という運動が盛んに行われていたが、その気持ちが分からないでもない。だが、そのような運動に左右されるものなのだろうか。
嗚咽しそうなくらいだ。目の前に高倉健が立っているような感動を覚えた。
それが菅原文太でも構わない。ゆえに松江城は、私には任侠路線に思えた。
男性ホルモンをくすぐるような太い柱と梁。やはり現存するだけのことはある。
天守から宍道湖を眺めた。海のような淡水に遠い憧れを抱いた。
ご婦人の団体が「日本三大山城って知ってる?」とか喋っていた。今、流行の歴女などではなく、実際に江戸時代から生き残って来たようなご婦人方が。
ちなみに当然、松江城は日本三大山城の1つではない。思いっ切り平地だ。
「日本100名城」の中の64番。また、12しかない「現存天守」の貴重な1つ。
風情ある塩見縄手を歩いた。すると、いい感じに日が照ってきた。
小泉八雲の旧居。小泉八雲という名前は、微妙に左右対称だ。
縁側がいい。ふと美濃町の生家を思い出した。
畳がいい。ただ、実際に暮らすとなるとフローリングのほうが掃除をしやすくてメンテナンスも楽なので間違いなくいいと確信している。
ちょうど17時。今回の楽しみの1つでもあった宍道湖の夕日だ。日没が17時31分だったが、そのたった31分間が待てなくてこの場を立ち去った。
なぜならば、空腹だったから。宍道湖の近くにある鰻屋のいづも屋に入った。
それが期待外れもいいところで、大目に見てもせいぜい65±5点だった。