「鈴の音や 幾重の紅葉 湯気を待つ」。地味に才能はあるものの、それ以上にやる気のない廃人いや、俳人であるこの僕が、ある家族の食卓風景を詠んだ句だよ。鈴虫が鳴く夜、ひとつの家族がひとつの鉄板スパに手をかざした。それはまるで紅葉のように愛しい手が幾重にも重なっていた。「すっごくあったかいよね」「いいにおいだね。おかあちゃんの作った鉄板スパっていつもおいしいんだよね」「もうちょっとだけあったまろうね」。日の暮れた晩秋の夜は想像以上に寒かった。麺と玉子だけのたったひとつの鉄板スパの湯気を6枚の紅葉がひっそりと待っていた。ハハハ、暑くてたまらんから寒くなる俳句でも詠まんとやっとれんがや。では、そろそろ今日の〆に入ろう。俳句で涼しくなれば原価は0ですっげぇ安くつくと思ったものの、ビンボー臭いだけで体感温度はまったく変わらない。