砂漠に水

...Drop by drop shifts the desert to oasis.

ギンダラの夜

丁寧に磨かれたバーカウンターに時間を掛けて頬杖をついたナオミは「きついマティーニを」と言った。バーテンダーは「カクテルの味がわかるのか?」という表情を漆黒の闇に隠しながら小さくうなずいた。「ねぇ、ビタミンをヴァイタミンって言うのやめてくれない?どうせ山田詠美の受け売りでしょ」。ナオミはカウンターの上で腕立て伏せをするタツヤに言った。「ヴァイタミンCを飲んで筋トレすると大胸筋が大きくなるような気がするんだ」。タツヤは笑った。ナオミは「あなたのようにしっかりとした男がどうしてそんなにやさしくなれるの?」と小刻みに震える唇で訊ねた。「男はタフじゃなければ生きていけない。やさしくなければ生きている資格はないんだ。いいかい、タツヤの綴りはタフと同じく『T』から始まるんだ」。するとバーテンダーが2切れの焼き魚を差し出した。「これは?」とナオミが訊ねた。「岡庄のギンダラです。追加注文はネットでググってください。そう、『タフ』というキーワードでね」。