砂漠に水

...Drop by drop shifts the desert to oasis.

25歳の断筆宣言

25年前、24歳の僕は浜松市内の独身寮にいた。ある日、駅前の映画館に入った。超話題作だった『危険な情事』を見た。「もー嫌。もーダメ。モーレツに怖すぎ。こんな女に付きまとわれた日には地獄より恐ろしいじゃん」という感想だった。この映画のおかげでデンジャラスな女子の見分け方を習得した。その帰りに高級文具店に立ち寄ると4万7千円のモンブランのマイスターシュテュックを購入した。今の貨幣価値にすれば327万円といったところだろうか。んなこたあない。その店主は「何かお書きになるのですか?」と僕に尋ねた。「はい、小説を」と僕は即答した。その2か月後に退職した僕は、文筆活動に専念するため名古屋で一人暮らしを始めた。結局、最初の一行が書けずに半年間ほどで作家を引退した。今でもこの万年筆を握ると当時の切ない想い出がよみがえってくる。原点に戻ることはできないが、初心を見つめ直すことはできる。セピア色の想い出を大切にしたい。