砂漠に水

...Drop by drop shifts the desert to oasis.

夏目漱石の『虞美人草』に登場する長崎屋本店の味噌松風

国の登録有形文化財であり江戸末期の雰囲気を今に残す『空穂屋』で焼きドーナツと熱い珈琲を大いに満喫した一昨日の僕は、その日の〆として「中竹屋町」にある『長崎屋本店』を訪れた。ほう、こちらは江戸中期の創業だぜ。「ねぇ、それって何年頃なの?」「うん、いつも迷惑ばっかかけて享子、ゴメンね」。享子ゴメン、享保ゴメン、享保5年、苦しい・・・。とにかく西暦に翻訳すると1720年、何と300年以上も昔なんだ。ちなみに、享保は「きょうほ」ではなく「きょうほう」が歴史的には正解なので念のため。だから、そんなことはどーでもいいんです。

長崎屋本店

外観の佇まいもステキだが一歩店内に足を踏み入れるとさらにいぶし銀の世界観を体感できた。いい。侘び寂びが全身の毛穴に入り込んでくるようだった。土間の床から太い柱に沿って天井を見上げた僕は「これは何ですか?」と十代目の店主に尋ねると「杉の皮を剥いだもので、今ではなかなか見かけませんね」と。それはそうと1763年に二代目が考案した「松風」と姉妹菓の「味噌松風」。その「味噌松風」は夏目漱石の『虞美人草』の中に登場するらしいから驚きだ。

長崎屋本店

「夏目漱石の小説に出てくるなんてすごいですね」「はい。でも、僕も読もうとしたんですけど仮名遣いが難しくて・・・(苦笑)」。いいんですよ。文学少年だったこの僕でさえも夏目漱石の作品は『坊っちゃん』と『吾輩は猫である』と『草枕』と『三四郎』と『彼岸過迄』とそれから『それから』しか読んでいないのだから。なぜだか『こころ』は5~6ページ目で気が萎えた。

長崎屋本店

2分前にも言ったが何度でも言おう。260年以上も前に二代目が考案したロングセラー商品が「松風」と姉妹菓の「味噌松風」だ。そして2000年代に突入すると九代目が「味噌松風」にゆずの風味を加えた「ゆず味噌松風」を考案した。現在はこの3つの商品のみに注力している。僕は「松風」と「味噌松風」を買った。自宅に帰ると熱いお茶で「松風」→「味噌松風」の順に頬張った。前者は「サクッ」と「ザクッ」の間のちょっと右寄りの食感、後者はどこか懐かしいほのかな甘味。どちらも江戸時代より受け継がれた風味と風情を十二分に味わうことができた。

松風と味噌松風

長崎屋本店の僕のレビューとマップ(詳細)はこちら maps.app.goo.gl