すでに湯上りの色男。まだ髪があるうちにできることをやっておこうと大量のシャンプーでベッカムヘアーを満喫していたらボトッと浴室内に大きな音がした。あ、シャワーの蛇口が落ちた。16年間も毎日使っているため錆びて朽ちたんだ。それは一瞬、数年先の自分の姿と重なって見えた。そして僕は久しぶりに途方に暮れかけた。生きとし生けるものすべてに役割や使命があり、その任務を終えたら寿命となる。僕は目の前の蛇口を左手で拾い上げると「お疲れさま。よく今まで頑張ってくれたね。ありがとう」と右手の人差し指と親指で目頭をおさえながら礼を述べた。私は、そーいう男だ。ただ、胸に熱いものが込み上げるのをフツーに冷たい心で中和していた。湯舟に首まで浸かりながら「カーマで蛇口を買ってくるか。面倒臭ぇ」と本音を漏らした。私は日曜大工が大嫌いだ。お金を払って済むならプロに任せたいが、世の中に日曜ダイカーがはびこるために私までチャレンジしなければならない。あぁ、面倒臭ぇ。